2016年3月10日木曜日

【書評】永江朗『「本が売れない」というけれど』(ポプラ新書)

現在の出版業界、なかでも書店の苦境を語ったエッセイ


 書店員、出版社員、フリーライターなどとして、長年、出版業界に携わってきた永江氏が、現在の出版業界の苦境、特に書店の苦境について思いを巡らせた本。

 いま、出版業界はたいへん厳しい状況にある。売り上げは全盛期(1990年代後半)のほぼ半分近くまで落ち込んでいるのに、新しく出る本の数は大きく増えている。これが何を意味するかというと、一つの本の売り上げは、最盛期の半分を大きく下回るということなのだ。

「なぜ、こんなことになったのか」、「その解決策やいかに」について、永江氏が考察する。
 よく言われるのは「活字離れ」だ。しかし永江氏はこれを否定する。現代人は、むしろ活字をよく読んでいる。それが新刊書籍や雑誌ではなくなっただけだと。新刊本を買うのではなく図書館やブックオフで調達し、雑誌を読むのではなくネットで情報を収集するようになっただけというのだ。なるほど、これは身に覚えがある。
 その他にも、取り次ぎの見計らい配本、書店の新刊ベストセラー偏重、出版社の自転車操業などに異を唱え、出版業界を立て直せないかと策を練る。現在の出版業界の苦境が、しみじみと伝わってくる一冊である。出版業界の現状を知りたい人の入門書にちょうどよい。

 一つ注意したいのは、永江氏の主張には数字的な根拠がないものも散見されるところである。永江氏個人の印象や思い入れに拠って書かれた部分が少なくないように感じた。だから「エッセイ」なのである。
 でも、エッセイだから読みやすく、心に響く。そういう本だと思って読んでほしい。



「本が売れない」というけれど [ 永江朗 ]
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