2018年1月18日木曜日

【書評】重松清『みんなのうた』(角川文庫)

 テーマはふるさと、家族、過疎。山陽の田舎町を舞台に、家族間の愛情と切なさが描かれた、いかにも重松氏らしい雰囲気の小説。
「こんな田舎で一生を終えるなんて、絶対イヤ」
と東京で受験生活を送っていたレイコさんが主人公。3度目の受験に失敗し、レイコさんが故郷へ帰るところから話は始まる。都落ちの負い目から、なかなかなじめないレイコさんだが、友人や弟のお陰で、徐々に心を開いてゆく。そして知る、家族の絆。同時に知る、故郷を捨てて都会へ出た「成功者」たちの冷たさ。「成功者」になりそこねたレイコさんとその家族の物語だ。
 最初は故郷のことなんて好きではなかったレイコさんが、故郷のための活動に参加するようになっていく過程が自然でよかった。しかし(少し嫌味な見方だが)普通の20歳前後の若者が、レイコさんのように心を変えていくことは、まずないだろう。だから都会の人口は増え、田舎の人口は減るのだ。家族の温かさが心地よい一方で、無縁仏や廃屋が生じる様子がリアルに伝わってくる。

 実は、わが家の状況が、これに近いのだ。私の父は、上記で書いた「成功者」だ。ただ、小説と違うのは、まだ故郷とかかわりを持っていて、墓などを維持していることだ。
 そして、その長男が私。「父の故郷」には昔は祖父母が住んでいたので、愛着はある。わが家のルーツがそこにあると実感できる。私の代までは、最低限の墓の管理や親戚づきあいは維持しようと思う。
 しかし、娘と息子に「あとは頼む」とは言いづらい。彼らにとっては、単にお墓のある場所でしかない。ルーツの地であることは頭では分かっていても、実感はないし、なんの愛着もないだろう。お墓なんて相続しても、重荷にしかならないに違いない。
 さあ、どうするかなあ…。あまり考えたくないことを目の前に突きつけられて、ボディブローでKOされた気分だ…。



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