2011年12月18日日曜日

ポー・ブロンソン、アシュリー・メリーマン『間違いだらけの子育て ―子育ての常識を変える10の最新ルール―』(インターシフト) ~プチ書評~

 ライターである著者らが、子育てに関する最新の科学的知見を10個取り上げて解説した本。それぞれの話題はほぼ独立しており、全体としての起承転結があるわけではない。
 結論を述べると、子育て、児童心理学、発達科学などに興味のある人は「買い」だ。随所に、今までの常識とは違う知見が、根拠とともに書かれている。ただし、こういう本の例に漏れず、書いてあることを100%鵜呑みするのはやめておくほうがよいだろうが。

 子どもの心の動きを調査する手法や機器の発達には目覚ましいものがあることに、改めて驚いた。
「大人の視点で子どもを見てはいけない!」
とは本書の帯にある言葉だ。
「そんなことは百も承知。いらんお世話や」
と私も思っていたのだが、甘かった。子どもには大人とは違った心の動きがあり、大人とは脳の構造も違うのだ。
 おそらく、今後も本書に紹介されているような研究は進み、新しい知見がどんどん発見され、子育ての常識も変わっていくのだろう。
 そういう意味では、子育てのHow to本よりも、子どもの心や発達に関するポピュラーサイエンスを求めている読者にお勧めである。

 私がとくに印象に残ったのは、第8章「頭より、自制心を鍛えよ」に出てくる「心の道具」プロジェクトだ。詳細は本書を読んでもらうとして、平たく言うと「子どもに予定を立てさせ、それを実行させる」というプロジェクトなのだが、これには「なるほど」である。
 私なりに解釈すると、予定を立ててその通りに実行する計画力が重要なのではなく、脳に準備をさせておくことが大事なのではないか。
 現在、鋭意子育て中の私にも経験がある。たとえば、イオンモールのプレイランドで子どもたちが遊んでいるとき、いきなり「さあ、帰ろうか」となると、子どもたちは大いにグズる。
「イヤだ~、まだ遊ぶ~」
というわけだ。ところが、帰る少し前に
「あと5~10分したら帰るよ。そのときは『さあ、帰ろう』と声をかけるから『ハ~イ』とお返事できるかな?」
と言っておくと、たしかに「さあ、帰るよ」となったときに「ハ~イ」と、お利口さんに行動できるのだ。これも「心の道具」プロジェクトと同じ心の動きなのだろう。
 本書を読んでいない人にはいまいちピンとこなかったかもしれないが、第8章だけでも読めば分かっていただけると思う。

 全体的には非常に面白かったとはいえ、一つ苦言を呈しておきたい。書名、宣伝文句、帯などが、あまりにセンセーショナルに過ぎないか。たとえば第1章のタイトルは「ほめられる子どもは伸びない」だが、第1章を読んでも、そのようなことは書かれていない。正確には「ほめられてばかりいて、何でもできると思っている子は伸びない」「ほめてはいけないのではなく、ほめ方にもコツがある」ということが書かれている。
 私も職業柄、読者の興味をあおりたくなる心境は分かるが、ちょっと度が過ぎるように感じた。

 また、子育てに関するHow to本ではないことも述べておきたい。
「今まではこう思われていたが、実はそうではないようだ」
ということは書かれているが
「なので、こうすればうまくいく」
ということは書かれていない。したがって、How toを期待して読むとガッカリするだろう。
 典型的なのが、第6章「きょうだい喧嘩を、叱るだけではいけない」だ。それによると、きょうだい間の関係というのは、下の子が生まれる前にあらかた決まっているというのだ(ビックリ)。下の子が生まれる前に、同世代の子たちとどのような関係性を結んでいたか、そのときの経験が、きょうだいの関係性に適用されるらしい。
 なら、「仲のよいきょうだい」を育てようと思ったら、下の子が生まれる前に、同世代の子たちと良好な関係を築いている必要があるわけだ。ところが、どうすれば同世代の子たちとそのような関係を築けるかは、本書では触れられていない。
 しかし、私はそれでよいと思う。本書の知見をどのように応用するかは、各人が考えればよいのだ。子育てに王道なし、である。

 たまたま、ラマチャンドランの本(『脳のなかの幽霊』)と本書を並行して読んでいたこともあり「脳というものは、われわれが自覚しているよりも格段にオートマチックに活動している」ということを強く感じた。われわれが「自分で考えている」「自分で決めた」と思っていることも、実はそうではなく、脳があらかじめ決めていたことを追認しているに過ぎないらしいのだ。
 だとすれば、脳が「どのようにオートマチックに反応するか」を鍛えることこそ肝心だ、ということになる(まさに、三つ子の魂百までだ)。本書には「よりよく脳を反応させる」ためのヒントが随所に散りばめられている。私も不惑を前にして、脳を鍛え直そうと無謀なモチベーションをかき立てている次第である。

 いったいどこまでが自由意志なのか、そもそも自由意志は存在するのか、それともそういうことを考えることが無意味なのか。
 脳と意志(心)の関係が完全に解明される日は来るのだろうか。



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