2015年3月4日水曜日

【書評】アラン・ブラッドリー『パイは小さな秘密を運ぶ』(創元推理文庫)

11歳のリケジョ(理系女子)が父の疑念を晴らす


 主人公は11歳の少女。しかし、普通の少女ではない。とんでもない化学オタクなのだ。母を亡くし、二人の姉とは折り合いが悪く、自宅の化学実験室にこもってバーナーやフラスコと戯れるのが好きという、よく言えばリケジョ、悪く言えば化学オタクの少女。特に好きなのが毒物で、植物を蒸留して毒を作るのが大好きというところが、オタクぶりに輪をかけている。
 かなり異質な主人公なのだが、そこが本作のキモ。「可憐」などの言葉とは対極にあるオタク少女の奮闘ぶりが描かれる。
 さまざまな物質の変化(これが化学の本質だ)から、偉大な化学者の豆知識まで、随所に「化学」が登場する。はっきり言って、とても「怪しい」雰囲気だ。

 しかしミステリーの本筋と化学は切り離されており、化学が理解できなくても全く問題ない。濡れ衣を着せられた父を救うべく、末娘が立ち回り、事件は少しずつ明らかになっていく。父の少年時代に何があったのか。鍵を握るのは、ある切手。それらがつながったとき、全てのピースがあるべきところに収まる。
「じゃあ、化学は別にいらないじゃん」
と思うことなかれ。本筋に化学が色を添えることにより、ストーリーが呼吸し、動き出すのだ。
「スイヘーリーベー…何だったっけ」
という人にも十分に楽しめる小説に仕上がっている。

 一つ残念だったのは、上記とは矛盾するが、事件と化学がほぼ全くかかわりがないことだ。事件の謎を解く鍵に化学が少しでもかかわっていれば「化学ミステリー」という称号(?)を与えられたのだが。それは自作に期待したい。




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