2015年3月5日木曜日

【書評】宮尾しげを『すし物語』(講談社学術文庫)

現代すし本の原点ともいえる古典的名著


 1960年初版刊行の、すし本の古典的名作。すしの食べ方、すしねた、にぎり方から、すしの歴史やすしの登場する落語などの豆知識まで網羅した、すし大事典である。江戸文化研究家の著者が豊富な文献をあたって書いた本であり、資料的な価値も高い。こういう本が新たなレーベルで復刊されるのは、喜ばしいことだ。

 刊行当時は、冷蔵・冷凍技術が現在ほど発達していなかったなど、現在とはいろいろ異なる点も多い。たとえばウニは、当時はおもに巻物のねただったようだ。軍艦巻きという手法が、まだ登場していなかったのだろう。マグロもいまほど高級ではなく、漁船で冷凍するという技術もなかったため、いまとはずいぶん食べ方も違ったようだ。こういう違いを知るのも楽しい。
 もちろん古いばかりではなく、いまでも通用することがたくさん書いてある。たとえばガリは、その頃から外注品が出回りはじめたそうだ。本書ではそれを
「ちゃんとしたすし屋なら、自分で作るべし」
と厳しく批判する。なるほど、その通りだ。
 何を守って、何を変えていくのか。すし屋だけでなく、すべての業界に共通のテーマだろう。そういう目で読むのも楽しい。
「女性よりも男性が握ったすしのほうが美味い気がする」
「箸で食べるなどもってのほか」
など、ちょっとどうかなあと思う記述も見られるが、時代の違いということにしておきたい。

 本書が刊行されてから50年以上が経過したが、すしはいまでも日本の国民食だ。海外にも「Sushi」が広まり、回転寿司の店があちこちにできた。そんな現代すし事情を見たら、宮尾氏はどう感じるだろうか。
「そんなのは、すしじゃない」
と思うんだろうか。いや、きっとそうではなく
「みんながいろんな形ですしを楽しめる、いい時代じゃないか」
と仰るに違いない。




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