2015年3月30日月曜日

【書評】仲野徹『エピジェネティクス―新しい生命像をえがく―』(岩波新書)

 持って生まれた遺伝子は変えられなくても、遺伝情報は変えられる。


 エピジェネティクスを私なりに平たく言うと、以下のようになる。

遺伝子(DNA)の働きを制御することにより、遺伝子からの情報を変える。

 エピジェネティクスは遺伝子自体を変化させるものではない。その働き(発現)を変えることにより、遺伝情報から生まれるもの(タンパク質)を制御するのだ。
 何がすごいのかというと、生まれた後でもエピジェネティクスによって遺伝情報を制御できるということである。持って生まれた遺伝子は変えられなくても、それを制御することにより、遺伝子から伝達される情報を変えることができるのだ。
 このエピジェネティクスの仕組み、その応用、将来の可能性などを、一流の科学者であり言論人としても注目されている仲野氏が解説した。さすが仲野氏、分かりやすい比喩などを駆使して、平易に説明している。エピジェネティクスという生命現象を、これ以上かみ砕いて書ける人はいないだろう。

 しかし、それでも本書を読むにはある程度の前提知識が必要だ。前提知識というとたいそうだが、DNAがmRNAに転写され、それが翻訳されてタンパク質ができるという基本的な流れ(セントラルドグマ)や、DNAの基本的な構造が分かっていれば大丈夫。エピジェネティクスとはその名の通り遺伝(ジェネティクス)のあと(エピ)の現象なのだから、遺伝についてある程度知っておかねばならないのは仕方ないだろう。

 生まれてからの生活環境や自らの努力によって、遺伝子は乗り越えられる。「遺伝子がすべてを決めるわけではない」と聞いて勇気づけられるのは私だけではないだろう。




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