2017年10月23日月曜日

【書評】内田康夫『遺譜 浅見光彦最後の事件 上・下』(角川書店)

永遠の33歳が、ついに34歳に


「あんたも浅見光彦、読んでたやろ。最後の事件は読んどき」
と母から渡された本。タイトルに「最後の事件」とあるように、永遠の33歳、永遠の好青年、浅見光彦の、ひと区切りとなる作品だ。

 光彦の34歳の誕生日パーティーから、話は始まる。これまでの事件に登場したヒロインが勢揃いするという設定だ。その中から今回選ばれたのは、本沢千恵子と阿部美果の二人。おそらく、内田氏のお気に入りキャラなのだろう。さらに新ヒロインとしてドイツ人バイオリニストのアリシア・ライヘンバッハが加わり、3人の美女に囲まれて話が進んでいく。
 最後を締めくくるにふさわしく、光彦はドイツと日本を股にかけて大活躍。二次大戦直前にドイツから日本に持ち込まれたものの正体と、その行方は。ドイツのライヘンバッハ家と日本の浅見家の因縁の正体は。さまざまな謎と美女が絡まり合い、ドイツのエルランゲンや京都の丹波市の旅情もスパイスとなり、光彦の行くところ行くところ、都合よく謎が解き明かされていく「これぞ光彦シリーズ」と言える内容に仕上がっている。光彦シリーズを一冊でも楽しんだことのある人にはシメの一冊としてお勧めだ。

 実は、私はエルランゲンに行ったことがあり、丹波もなじみの場所。そいういう面からも楽しめる作品だった。ちなみにエルランゲン(エアランゲンと表記されることも多い)は、本書からは古い都市を想像させるが、実際は非常に進んだ都市で、シーメンスの拠点でもある。ニュルンベルクに行く機会があれば、ぜひエルランゲンまで足を伸ばしてはどうだろうか。

 私が最初に読んだ光彦シリーズは、代表作の一つである『天河殺人事件』。高校生のときに、母から勧められて読んだら、これが面白かった。そこから数冊読んだが、遠のいてしまい、いつの間にか光彦より10歳以上も年上になってしまった…。初読から約30年経ったいまでも、光彦は相変わらず光彦だったのは、なんだかホッとした(笑)。

 内田氏は脳梗塞を患い、2017年3月に断筆を宣言した。その予感めいたものがあり、この作品を著したのかもしれない。



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