私は、この本をきっかけに、柳さんの名前を知った。上記のような事情で本書は読んでいなかったのだが、すでに文庫化されていたものを何冊か読んだ。
最後に謎解きの場面があり、犯人、動機、トリックがきちんと明らかになる作品が多く「ちゃんと終わった」という読後感を得られる。ホームズやポワロからミステリーに入った私は「(悪い意味ではなく)懐かしいタイプのミステリーを書く作家さんだなあ」と思っていた。
そんな柳さんが、この作品で大ブレークした。「歴史上のある時点に架空の舞台を設定し、話を展開する」という得意の手法を用いつつ、上記のような古典的な香りのするミステリーとは一線を画したスパイ小説となっている。
結論を述べると、めちゃ面白い。
戦前に軍に設立されたスパイ養成機関「D機関」。そこで、超クールなイケメン(想像、いや妄想)たちが「魔王 結城中佐」の訓練を受け、スパイとして世界中に派遣される。この設定を作った段階で、柳さんの勝ちは確定である。面白くないわけがないだろう。
東京、横浜、ロンドン、上海、そしてまた東京と、さまざまな舞台で繰り広げられるスパイの暗躍にワクワク、ドキドキ。柳さんの薄暗い雰囲気の文章と、スパイたちの発するオーラが絶妙にマッチしており、冒頭から一気に引きずり込まれる。
スパイ小説というと、誰がどれで、この人はどこの人で、あの人はこっちの味方かあっちの味方か…と状況が複雑にコンガラガリゼーションしており、面白いけれど読むのに時間がかかる、という印象があるかもしれない。しかし、本作品はそういう複雑さとは無縁である。スパイ小説であるにもかかわらず、状況は単純で、話は入りくんでいない。登場人物も限られている。でも、スパイ小説の面白さは損なわれていないのだ。脱帽。
本作品は長編ではなく、それぞれ独立した話が数話収録された短編集である。次回は、ぜひ同じ舞台設定での長編を読んでみたい(続編の『ダブル・ジョーカー』も短編集だそうだ)。
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