2014年9月18日木曜日

書評 安生正『生存者ゼロ』(宝島社文庫)

爆発的に感染して人を死に至らしめる猛ウイルスが北海道を襲う。
君は生き延びることができるか。


 未知の猛ウイルスが発生して人々がパニックに陥るという、SFにありがちな設定なのだが、ウイルスの生態やそれを防ごうとする科学者たちの奮闘ぶりがリアルに描かれており、一気に読み終えてしまった。
 粗筋はこんな感じ。

【粗 筋】
 北海道東部の沖合で、海上施設がウイルスの餌食になった。施設の住人たちは皮膚からおびただしく出血し、無惨な死を遂げていただけでなく、バリケードを築いた跡もあり、何かから必死で逃げようとした痕跡が残っていた。どんな悪魔が彼らを襲ったのだろうか。
 続いて、ウイルスは北海道に上陸。道東のある町が全滅した。ウイルスの生態も、感染経路も不明。未知の恐怖が北海道を襲う。そしてついに、ウイルスは札幌へ。北海道民は、いや日本国民はパニックに陥る。
 ウイルスに立ち向かうのは、廻田という自衛官。精神に破綻をきたした天才ウイルス学者や、気の強い女性昆虫学者らとともに、パンデミックを阻止しようと命を投げ出す。廻田は北海道を救うことができるのか。

 この手のパニックものが好きな人にはお薦めの一冊。
 一つ気になった点を挙げるなら、リアルさに差があることだ。ウイルスの生態や感染経路は科学的に描かれており、かなりリアルに感じた。これが本作の売りだろう。一方でストーリーの骨子は、首相を含む日本の首脳陣がとんでもないアホばっかりだったり、神のお告げが出てきたり、非科学的・非リアルな部分が多く、このギャップが目についた。
 小説だから非科学的・非リアルでもよいのだが、そのバランスが悪いと非リアルな部分が目についてしまうのかもしれない。

 よくあるストーリーなのだが、それを読ませる筆力があるので飽きさせない小説だった。本作を読んで、むかし見た「スピード」という映画を思い出した。ストーリーは似ていないのだが「息をつかせぬ」という共通点が、その映画を連想させたのだろう。




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