舞台は、とある地下施設。時給11万2千円のアルバイトという名目で集まった男女12人が地下の密空間で共同生活を送る。そう本作は、隔離された空間で順々に人が殺されていくという、ミステリーの王道ともいえるストーリーなのだ(ミステリー用語では「クローズドサークル」というらしい)。『そして誰もいなくなった』を代表とするこのテーマに、現代のミステリー作家がどう挑んだのか。
本作の特徴は、集まる人々が
「何かあるに違いない」
と思っているところだ。従来のクローズドサークル物は「何も知らずに集まった人々が…」という展開が多いが、本作はそうではない。時給11万2千円、この報酬には何か裏があるに違いないと、誰もが思っている。そんな男女12人が、いきなり密空間に閉じこめられる。
「何かが起こる」
と全員が感じている。高まる緊張感。最初の死者が出るまでの、この微妙な空気を描いた序盤が、本書の最初の見せ場である。まだ事件も何も起きていないのに、どんどん高まる緊張感とよそよそしい空気。それを取りなそうとするリーダー格の男。
この序盤だけでも読む価値ありだが、序盤だけを読んで本書を放り投げることは不可能だろう。ひとたび事件が起きると、後はラストまで一直線。息をつく暇もなく読み終えた。
王道ミステリーを存分に堪能させてもらった。本格ミステリー好きの人には外せない一冊。
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