以前、『鳥なんばそばの「なんば」って何や?』というエントリーを3回シリーズで書いた。その際に、ざるそばと盛りそばの違いが気になっているということにチラッと触れたが、今回は、その謎を解き明かしていこうというわけだ。一部、前回に述べたことと重複するが、疑問を持つに至ったきっかけから始めていきたい。
私はそば屋では、温かいものではなく、ざるそばまたは盛りそばを注文することが多い。私は関西で生まれ育ったのだが、子どものころは、そば屋には盛りそばというメニューはなく、ざるそばしかなかったように思う。冷たいそばをつゆにつけて食べるといえば、それは「ざるそば」だったわけだ。
ところが、いつの間にか関西にも、盛りそばをメニューに掲げる店が増えていた。これは印象に過ぎないかもしれないし、私がそういうそば屋にも行くようになっただけなのかもしれない。とにかく、「盛りそば」を目にする機会が増えたのだが、私は同じものを「ざるそば」といったり、「盛りそば」といったりするのだと思っていた。関西風のものがざるそばで、関東風のものがざるそばだと。
学生時代、友人を訪ねに東京に行ったときのこと。「関東のそばは関西よりも美味いらしい」という噂はつねづね聞いていたので、早速、友人とそば屋に行ってみた。……たしかに美味い。完敗である。当時、「阪神タイガースはPL学園より弱い」といわれていた時代だったこともあり、「やはり関東には勝てないのか」と精神的にもKO負けをくらって帰ってきた(東への対抗心丸出しの、アホな関西人の典型ですな…)。
そのとき、そばの美味さもさることながら、もう一つショックを受けた出来事があった。何とそば屋のメニューに「ざるそば」と「盛りそば」が両方あるではないか。しかも、ざるそばのほうが高い。『メニューの中に「生中」と「中ジョッキ」が両方書いてあり、しかも値段が違う』という状況を想像してもらえれば、私のショックもおわかりいただけるだろう。「小ライス」と「ご飯(小)」の値段が違うという状況を……しつこいので、ここらでやめておく。
それ以来、ずっと小骨がのどに刺さったような違和感を覚えつつ、日々の生活を送っていたわけだが、ある日、愛読誌「週刊競馬ブック」の中に、「盛りそばに海苔がパラパラとかけてあるのがざるそばである。ちょっと海苔がかかっているだけで、100円も高いとはけしからん」という記事を見つけて、長年の悩みは解消した。それにしても、意外なところから答えが転がり込んできたものだ。人生、わからないものである。
今回は、その記事の真偽も含めて、もう少し詳しく「ざるそば」と「盛りそば」の違いを追っていきたい。
次回に続く。
2011年10月4日火曜日
鳥なんばそばの「なんば」って何や? その3
前回の最後に触れたように、「なんば」の語源にはもう一つの説がある。これは、たいへんわかりやすい説である。以下、紹介していこう。
江戸時代、大阪の難波(いわずとしれた「ミナミ」の中心地である)一帯ではネギが栽培されており、そのため関西ではネギのことを「なんば」と呼ぶようになった。そこから、ネギを使った料理も「なんば」というようになった、という説である。何ともわかりやすいではないか。インターネットで調べたところでは、この説を主張しているところが多かった。そして関東では、この「なんば」と、「西洋的な」という意味の「南蛮」が結びついて、ネギを使った料理を南蛮と呼ぶようになったという。
鳥なんばそばの「なんば」の語源が大阪の「難波」だったとは、たしかにおもしろい。そして、何度もいうように、わかりやすい。そのため、この説が広まっているのだろうが、どうもこの説はちょっと怪しいようだ。私のここまでの説明でも、関東でネギのことを南蛮というところの説明が、かなり怪しい気がしないだろうか。この「大阪の難波」→「なんば」説が怪しいことは、次のサイトに詳しい。そばに精通している方が、緻密な調査をもとに、説得力のある説明をされていると思う。
大阪・上方の蕎麦(トップページ)
西成郡難波村とネギ
なんば・なんばんの呼称
この他にも、「なんばそば」「なんばんそば」の語源を扱ったサイトはいくつもあるが、先にも述べたように、大阪の難波が転じたという説が有力だ。しかし、その説に異を唱えているところも見られる。もう、こうなってくると考古学の世界である。これ以上の調査は私の手に負えるところではない、と逃げることにしよう。
「おまえの意見なんか、参考にならん」という批判は無視して、ここまでの情報から私の意見を述べると、私も「大阪の難波」説には否定的である。「大阪の難波説はちょっとおかしいんじゃないの?」という意見に説得力があるように感じるからだ。
そういうわけで、私は前回の意見を推す。すなわち、古来中国の南蛮という言葉が日本に入ってきて、転じてネギやトウガラシなどを使った料理を指すようになったのがその由来だ、という説だ。いまでも「南蛮煮」という料理に見られるように、もともとは、南蛮という言葉はネギのみを指すわけではなかったのだろう。それがいつのまにか、そば業界では「ネギ」だけを「なんばん」や「なんば」というようになったのではないだろうか。
それにしても、関西では「なんば」、関東では「なんばん」という使い分けが現在でも残っているのは興味深い。アホとバカの境界のように、「なんば」と「なんばん」の境界がどの地域なのか、調べてみるのもおもしろそうだ。
江戸時代、大阪の難波(いわずとしれた「ミナミ」の中心地である)一帯ではネギが栽培されており、そのため関西ではネギのことを「なんば」と呼ぶようになった。そこから、ネギを使った料理も「なんば」というようになった、という説である。何ともわかりやすいではないか。インターネットで調べたところでは、この説を主張しているところが多かった。そして関東では、この「なんば」と、「西洋的な」という意味の「南蛮」が結びついて、ネギを使った料理を南蛮と呼ぶようになったという。
鳥なんばそばの「なんば」の語源が大阪の「難波」だったとは、たしかにおもしろい。そして、何度もいうように、わかりやすい。そのため、この説が広まっているのだろうが、どうもこの説はちょっと怪しいようだ。私のここまでの説明でも、関東でネギのことを南蛮というところの説明が、かなり怪しい気がしないだろうか。この「大阪の難波」→「なんば」説が怪しいことは、次のサイトに詳しい。そばに精通している方が、緻密な調査をもとに、説得力のある説明をされていると思う。
大阪・上方の蕎麦(トップページ)
西成郡難波村とネギ
なんば・なんばんの呼称
この他にも、「なんばそば」「なんばんそば」の語源を扱ったサイトはいくつもあるが、先にも述べたように、大阪の難波が転じたという説が有力だ。しかし、その説に異を唱えているところも見られる。もう、こうなってくると考古学の世界である。これ以上の調査は私の手に負えるところではない、と逃げることにしよう。
「おまえの意見なんか、参考にならん」という批判は無視して、ここまでの情報から私の意見を述べると、私も「大阪の難波」説には否定的である。「大阪の難波説はちょっとおかしいんじゃないの?」という意見に説得力があるように感じるからだ。
そういうわけで、私は前回の意見を推す。すなわち、古来中国の南蛮という言葉が日本に入ってきて、転じてネギやトウガラシなどを使った料理を指すようになったのがその由来だ、という説だ。いまでも「南蛮煮」という料理に見られるように、もともとは、南蛮という言葉はネギのみを指すわけではなかったのだろう。それがいつのまにか、そば業界では「ネギ」だけを「なんばん」や「なんば」というようになったのではないだろうか。
それにしても、関西では「なんば」、関東では「なんばん」という使い分けが現在でも残っているのは興味深い。アホとバカの境界のように、「なんば」と「なんばん」の境界がどの地域なのか、調べてみるのもおもしろそうだ。
鳥なんばそばの「なんば」って何や? その2
さて、いよいよ「なんば」の謎に迫っていこう。
といっても「なんば」の意味自体は謎でもなんでもなく、要するにネギのことである。いったい、前回の長い前振りは何だったのだろうか…。
要するに、「鳥そば」といえば鳥肉入りのそば、「鳥なんばそば」といえば鳥肉とネギの入ったそばを意味するわけだ。同様に、「鴨なんばそば」であれば、鴨肉とネギの入ったそばということになる。
というわけで、今回はおしまい…。
としてもよかったのだが、この「なんば」、思いのほかたくさんの謎をもっているのである。せっかくだし、紹介していこうではないか。
まず、「なんばそば」と呼ばれるためには、ネギにも条件がある。立派なネギじゃないとダメだとか、白ネギじゃないとダメだとか、そういう話ではない。「刻みネギではダメ」なのである。長ネギ、しかも油で焼いた(もしくは揚げた)ネギでないと、正式な「なんばそば」とはいえない。現在は、油を使っていない長ネギを入れたものでも「なんばそば」として出している店もあるようだが、本来は油を使わなくてはならないそうだ。
また、関東では「鳥なんばんそば」「鴨なんばんそば」のように「ん」の文字が入る。前回の盛りそばざるそば問題とは違って、「鳥なんばん」と「鳥なんば」は同じものを指す。そして、鳥なんばんのなんばんを漢字で書くと南蛮となる。そう、チキン南蛮の南蛮と同じではないか。この南蛮(関西ではなんば)は、いったいどういう意味の言葉なのだろうか。ネギという意味ではなかったのか?
この南蛮という言葉にはいろいろな意味があるのだが、そもそもは中国人が南方の異文化の人々を蔑視するときに用いた言葉である。「南にいる野蛮なヤツら」という感じの意味だったのだろう。その言葉が日本に入ってきて、「東南アジア方面」を意味するようになった。江戸時代になると、その言葉の意味する地域はさらに広がり、インド、ついにはポルトガルやオランダなどの西洋も指すようになった。えらい広がりようである。そして、これらの国から入ってくる渡来物にも「南蛮」という言葉をあてるようになり、その代表がトウガラシとネギである。鳥なんばんや鴨なんばんの南蛮は、もちろんネギという意味で使われている南蛮である。一方、チキン南蛮や南蛮菓子といったときの南蛮は、「西洋風の」という意味で使われている。
というわけで、鳥なんばの「なんば」は、ネギを表す南蛮という言葉がなまって「なんば」と呼ばれるようになったのがその由来である。一件落着……とはならない。なんと、「なんば」の由来にはもう一つの説がある。続きは次回。
といっても「なんば」の意味自体は謎でもなんでもなく、要するにネギのことである。いったい、前回の長い前振りは何だったのだろうか…。
要するに、「鳥そば」といえば鳥肉入りのそば、「鳥なんばそば」といえば鳥肉とネギの入ったそばを意味するわけだ。同様に、「鴨なんばそば」であれば、鴨肉とネギの入ったそばということになる。
というわけで、今回はおしまい…。
としてもよかったのだが、この「なんば」、思いのほかたくさんの謎をもっているのである。せっかくだし、紹介していこうではないか。
まず、「なんばそば」と呼ばれるためには、ネギにも条件がある。立派なネギじゃないとダメだとか、白ネギじゃないとダメだとか、そういう話ではない。「刻みネギではダメ」なのである。長ネギ、しかも油で焼いた(もしくは揚げた)ネギでないと、正式な「なんばそば」とはいえない。現在は、油を使っていない長ネギを入れたものでも「なんばそば」として出している店もあるようだが、本来は油を使わなくてはならないそうだ。
また、関東では「鳥なんばんそば」「鴨なんばんそば」のように「ん」の文字が入る。前回の盛りそばざるそば問題とは違って、「鳥なんばん」と「鳥なんば」は同じものを指す。そして、鳥なんばんのなんばんを漢字で書くと南蛮となる。そう、チキン南蛮の南蛮と同じではないか。この南蛮(関西ではなんば)は、いったいどういう意味の言葉なのだろうか。ネギという意味ではなかったのか?
この南蛮という言葉にはいろいろな意味があるのだが、そもそもは中国人が南方の異文化の人々を蔑視するときに用いた言葉である。「南にいる野蛮なヤツら」という感じの意味だったのだろう。その言葉が日本に入ってきて、「東南アジア方面」を意味するようになった。江戸時代になると、その言葉の意味する地域はさらに広がり、インド、ついにはポルトガルやオランダなどの西洋も指すようになった。えらい広がりようである。そして、これらの国から入ってくる渡来物にも「南蛮」という言葉をあてるようになり、その代表がトウガラシとネギである。鳥なんばんや鴨なんばんの南蛮は、もちろんネギという意味で使われている南蛮である。一方、チキン南蛮や南蛮菓子といったときの南蛮は、「西洋風の」という意味で使われている。
というわけで、鳥なんばの「なんば」は、ネギを表す南蛮という言葉がなまって「なんば」と呼ばれるようになったのがその由来である。一件落着……とはならない。なんと、「なんば」の由来にはもう一つの説がある。続きは次回。
鳥なんばそばの「なんば」って何や? その1
私はそばがけっこう好きである。関西はそばよりもうどんだとよくいわれるが、うどん屋よりもそば屋のほうが多い気がする。おそらく関東の人よりはたくさんうどんを食べるのだろうが、関西人のうどんとそばの消費量はどちらが多いのだろうか。意外とそばのほうが多かったりするような気がするのだが、誰か調べた人がいれば教えていただきたい。
ここのところ関西にも本格的そば屋(十割そばを出すような店)が増えてきた。一種のブームである。しかし、ざるそばに千円以上出すのは大蔵大臣の許可が必要なので、あまりそういう店には行かない(行けない)。
閑話休題。
そういうわけで、私はしばしば(それほど高くない)そば屋に行き、たいていはざるそば(または盛りそば)を注文する。私は、同じものを、関西ではざるそば、関東では盛りそばと呼んでいるのだと思っていたのだが、あるとき、関東のそば屋のメニューにざるそばを発見した。まるで、一人の女だと思ってつきあっていたのが、じつは二人の女性で「さあ、ざる子か盛り子か、どっちを選ぶの?」といわれたようなものだ。
その店では盛りそばよりもざるそばのほうが高かった。「いったい何が違うのか?」激しく気になったのも当然であろう。その後、「盛りそばに、きざんだノリがパラパラとかけてあるのがざるそばである。ノリをかけるだけで100円も高いとはけしからん」という記事を目にして私の疑問は解消したのだが、その記事が正しいのかどうかは確かめていない。この、ざるそば盛りそば問題も、機会があれば真偽のほどを確かめてみたい。
今日は本題にはいることができなかった。申し訳ない。「なんば」の謎は明日以降に解明していく。
ここのところ関西にも本格的そば屋(十割そばを出すような店)が増えてきた。一種のブームである。しかし、ざるそばに千円以上出すのは大蔵大臣の許可が必要なので、あまりそういう店には行かない(行けない)。
閑話休題。
そういうわけで、私はしばしば(それほど高くない)そば屋に行き、たいていはざるそば(または盛りそば)を注文する。私は、同じものを、関西ではざるそば、関東では盛りそばと呼んでいるのだと思っていたのだが、あるとき、関東のそば屋のメニューにざるそばを発見した。まるで、一人の女だと思ってつきあっていたのが、じつは二人の女性で「さあ、ざる子か盛り子か、どっちを選ぶの?」といわれたようなものだ。
その店では盛りそばよりもざるそばのほうが高かった。「いったい何が違うのか?」激しく気になったのも当然であろう。その後、「盛りそばに、きざんだノリがパラパラとかけてあるのがざるそばである。ノリをかけるだけで100円も高いとはけしからん」という記事を目にして私の疑問は解消したのだが、その記事が正しいのかどうかは確かめていない。この、ざるそば盛りそば問題も、機会があれば真偽のほどを確かめてみたい。
今日は本題にはいることができなかった。申し訳ない。「なんば」の謎は明日以降に解明していく。
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