2017年7月14日金曜日

【書評】梨木香歩『冬虫夏草』(新潮文庫)

久々に読み終えるのが惜しい小説


 文庫版が出るのを待ちわびていた。名著『家守綺譚』の続編。未読の方は、まずはこちらを読むことを強くお勧めする。

 相変わらず琵琶湖疎水のほとりで亡き友の家を守る綿貫という男が主人公。その綿貫が愛犬ゴローを探しに鈴鹿の山へ向かうのが今回のストーリー。いまの国道421号線である八風(はっぷう)街道を、滋賀県側から愛知川に沿って登ってゆく。
 鈴鹿山脈の奥深くに入っていくにつれて、少しずつ異世界が顔を出す。これが自然に描かれるところが梨木氏の腕の良さだ。八風街道をそれて愛知川の支流に入る頃には、人にあらざる者が次々に登場。それがごく自然に出てくるものだから、読者は
「そういうものなのね」
と何の違和感もなく受け入れるしかない。この「いつの間にやら異世界へ」が梨木ワールドの真骨頂だ。
 また、旅の途中で出会う人々の「人の良さ」(人じゃないのもいるけど)が心にしみる。こういう心の機微を描くことにかけては、梨木氏の右に出る者はいないだろう。

 「神々しい」という言葉の意味を知りたければ、この小説を読めばよい。きっと言葉の意味を体感できるはず。日本人と神様たちの関係を見事に表した名作だ。私も八風街道を歩いてみたくなった。



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