2013年10月15日火曜日

書評 小川洋子『原稿零枚日記』(集英社文庫)

 現実と虚構、この世とあの世の境目を、プラプラ散歩した気分にさせてくれる小説。小川ワールド全開。

 書名から、小川氏の執筆活動をネタにしたエッセイ集だと思っていたが、全く違った。
 ある作家の日記という形で、さまざまな出来事が描かれる。取材で訪れた地で食べた苔料理、子ども時代に住んでいた家の話、「あらすじ教室」の講師をしたときの様子、妙ちくりんな健康スパランドでの体験などなど、独立しているようでいながら、一部がリンクしているような小話が収められている。
 (おそらく)小川氏の実体験を出発点にしているのだが、読み進めるうちに、読者はいつの間にか虚構の世界へと誘われる。どこまでが現実で、どこからが虚構なのか。あまりにも自然な成りゆきに、いつ現実の境界線を踏み越えてしまったのか気がつかないが、終わってみれば、小川ワールドにどっぷりと浸っているのだ。

 読み終えて現実世界に戻ってくると「ただいま」と言いたくなる。ちょっと変わった夢を見た後のような読後感の小説だった。



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