2014年4月2日水曜日

書評 遠藤周作『沈黙』(新潮文庫)

拷問よりも過酷な状況。意志の弱い人間には無縁の苦悩とは。


 ときは江戸時代。幕府はキリスト教を禁じ、キリスト教徒を徹底的に弾圧する。しかしそんな日本に、いやそんな日本だからこそ、密航を決心する司祭たちがいた。その一人、ポルトガル人のロドリゴという司祭が主人公。
 弾圧に苦しむ日本人の同胞を救うため、日本へ向かったロドリゴ。捕まれば激烈な拷問を受け、ジワジワと殺されていくのは覚悟のうえだ。拷問は恐ろしいが、耐える覚悟はできている。
 そんなロドリゴを最終的に待っていたのは、拷問よりも過酷な状況だった。自分が耐えるだけでは何も解決しない。それどころか、自分が耐えれば耐えるほど、状況は悪化する。強い意志を持っているからこそ苦しむロドリゴ。
 この究極の状況で、彼が選んだ道はいかに。

 よくこんな状況を考えついたものだ。キリスト教信者である遠藤氏ならではの発想といえよう。一般的な日本人には理解できない、一神教を信じる人たちの信仰の強さと排他的な思想。それが日本という風土や文化とぶつかるとどうなるのか。正面衝突とは違う形のせめぎ合いになる。
 また「信仰とは何か」についても考えさせられた。一般には、教義を守り、神の教えを信じることが信仰だ。しかし、究極の状況で本当に守るべきものは何なのか。それは「形」ではないはずだ、という形式主義への批判も本書のメッセージの一つである。

 はっきりしているのは、私のような意志の弱い人間には無縁の苦悩を描いた作品だということだ。「情けないなあ」とも「意志が弱くてよかった」とも思える、ちょっとモヤモヤした読後感だった。
 若くて、今よりも正義感の強い頃に読んでいたらまた違った印象を持っただろう。オレも歳をとったということのか…。



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