2015年7月3日金曜日

【書評】辻村深月『凍りのくじら』(講談社文庫)

ページをめくるごとに、読者の心に何かがジワジワと積み重なっていく。しかしその正体が分からない


 初めて読んだ辻村作品。
 主人公の女子高生の一人称でストーリーは語られる。この主人公が自分につけたニックネームは「Sukoshi Fuzai(少し、不在)」。どんな人とも、どんな場にもすんなり馴染めるのだが、いつもどこか「不在」、すなわち傍観者なのだ。
 前半は、主人公が醒めた目で周囲とかかわり合う様子が訥々と語られる。静かだが、徐々に、ジワジワと何かが積み重なっていく。何かが積み重なっていることは分かるのだが、それが何なのか読者のわれわれにも判然としない。
「いったいこの正体は何なのだろう」
そして後半に、積み重なっていたことが一気に放たれる。
「ああ、そうだったのか」
という思いとともに、涙腺が緩む。うーん、泣けた。

 本書で取りあげられる人間関係は盛りだくさんである。父娘関係、母娘関係、友人関係、恋、ストーカー。人間関係のすべてを語り尽くそうとでも言うのか。しかし、これらが持て余されることなく、それぞれがきちんと語られるところが辻村氏の腕の良さなのだろう。
 また、巧みにストーリーに絡んでくるドラえもんとその道具もいい味を出している。

 これほどに「ジワジワ」来る作品は初めてだった。前半で投げ出してしまう読者もいるかもしれないが、最後まで読まないと損をすると断言できる。



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