2011年10月22日土曜日

書評 東野圭吾『宿命』(講談社文庫)

 東野さんの初期の作品。
 「そういえば、かなり以前に妻が買ってきた本書をまだ読んでいなかったなあ」と思って読み始めると…すでに読んだことがあった。記憶力が落ちてますなあ…。さらに恐ろしいことに、読み進めていっても、トリックや動機はおろか犯人さえ覚えていない。私の脳みそも、作られてからもうすぐ40年。かなり劣化が進んでいるようだ。トホホ。
 しかし、ここは前向きに、一冊で二度楽しめたということにしておきたい。

 それでは書評に移ろう。
 ひと言でいうなら、とてもよくできた小説。東野さんに対して「よくできた」なんて偉そうな感じもするが、よくできた小説なのだから仕方がない。

 まずプロローグで、昔の話が語られる。病院で一人の女性が死亡。自殺ということで処理されるのだが、どうも怪しい。
 そして話は現在へ。
 ある会社の新社長が毒矢で殺害される。容疑者はその当日に前社長の家に集まっていた面々。すなわち、前社長の親族、そして会社の重役連中だ。しかし、みなアリバイがある。犯人はどのようなトリックで殺害したのか、そしてその動機は。
 さらに、物語ではもう一つの謎が並行して語られる。それこそが、プロローグで出てくる病院にかかわる話だ。その昔、病院では何が行われていたのか、女性の死は本当に自殺だったのか、ヒロイン役の女性の「糸」の正体は…。これらの謎が新社長殺しとも絡み合い、スリリングに話は展開する。
 そして、新社長殺人事件の謎が解け、一件落着…とはいかない。もう一つの謎はどうなっているのか。最後はそちらの謎も解明され、すべてのパズルがカチッとはまる。ラストシーンでは、タイトルの「宿命」の意味も明らかになり「おお、なるほど」というわけだ。
 すべてが収まるところに収まり、非常にスッキリした読後感を味わえた。

 高校のときにやむを得ず別れた初恋の女性と突然巡り会えば、心が騒ぐだろうなあ。私にはそういう相手はいないので、無用な心配なのですが…。



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