月面で宇宙服を着た遺体が発見される。ところが何と、その遺体の主は5万年前に死亡したというではないか。しかも、その容姿は人間(ホモ・サピエンス)にそっくりなのだ。八本脚の火星人ではない。
これがストーリーの前提、前置きなのだが、これだけでも本書の魅力はおわかりいただけるだろう。
なぜ5万年前の月面に、ヒト型生物の遺体があるのか。彼はどこから、何のために月面にやってきて、そして死ぬことになったのか。
その謎を解き明かそうとるす科学者、ヴィクター・ハントが主人公。彼が謎を追う過程をつづったのが本書である。実にスリリングで、一気に読み終えた。
本書の原著は1977年に上梓されたものだが、ほとんど古さを感じさせない。登場する科学や技術の一部にはもちろん飛躍があるが、その周辺を埋める記述、人物の行動などが実にリアルに描かれている。
「まるでドキュメンタリーを読んでいるようだ」
というと大げさだが、そう書きたくなる。
ただホーガンさんも、コンピュータのすさまじい発展と、DNA鑑定などの生命科学の著しい進歩は予測の範囲外だったようで、そのあたりの記述がやや弱いが、それもあげあし取りか。
また、翻訳もたいへん読みやすかった。
ちょっと古い翻訳小説というと、堅くて取っつきにくい訳のものも多く、SFだとなおさらその傾向が強いが、本書は例外である。翻訳書ということを感じさせない、なめらかな訳文に仕上がっている。
本書には、大きな謎が一つ未解明のまま残されている。それがおそらく、次作で解明されるのだろう。近いうちに読みたい。
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