2013年7月1日月曜日

書評 トム・マクナブ『遙かなるセントラルパーク 米大陸横断ウルトラマラソン 上・下』(文春文庫)

「ニューヨークへ行きたいか~っ!」
 その昔、そんな番組があった。当時小学生だった私は、放送を心待ちにしていたものだ。
 本書は、それよりもさらに約半世紀前の1931年を舞台に、アメリカ大陸をマラソンで横断するという実在の大会をベースに、その模様をドラマ化したもの。主要登場人物のうちの何名かは実在の人物なのだそうだ。
 冒頭に書いた「アメリカ横断ウルトラクイズ」も、勝ち抜きクイズ大会としての面白さはもちろんあったが、「人間ドラマ」をうまく織り交ぜたところが人気の秘訣だった。本書はそのマラソン版と思ってもらえればよいだろう。いや、「ウルトラクイズ」のほうが本書のクイズ版だ、というほうが順序としては正しいか。

 熱砂の砂漠地帯から、米大陸を東西に隔てるロッキー山脈まで、ランナーたちはさまざまな難関をくぐり抜けねばならない。
 1931年といえば、二つの大戦の間の時代。テレビもまだなく、輸送手段も未発達だったこの時代に、数百名ものランナーが大陸を横断するのだから、当然、さまざまなトラブルが発生する。また、当時はプロスポーツ選手とアマスポーツ選手の境界が厳然と存在し、その間の駆け引きにこのマラソンも翻弄される。
 これらの難関を、レースの主催者とランナーたちが乗り越えていく。レースを進めるうちに心を通じ合い、協力しつつ難関を突破していく人間ドラマが本書の醍醐味だ。
 かつては世界レベルにあった老ランナー、スコットランドからやってきた失業中の職工、これまた失業中の元炭坑夫、元ダンサーの女性など、多様なランナーたちが物語を彩る。これらの個性的な面々が絡み合い、人間ドラマが描かれていく。
 恋愛、一族代表としての責任、個人的野望、貴族としての矜持などなど、いろいろな思惑が交錯しつつ、レースは進んでいく。そして迎えるゴールはニューヨーク。42.195 kmとはまた違う感動がある。

 最近、運動へのモチベーションを高めている私は、さらに妄想が刺激されてしまった。この勢いに乗ってジム通いを始めるかどうか、悩ましい…。



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