マンションも便利でよいが、庭も捨てがたい
江戸時代の下町を舞台にした人情小説。と思わせておいて、後半は人情にとどまらない展開を見せる。グイグイ読ませるストーリーに、江戸の庭文化が自然に散りばめられているところも憎い。私はマンション住まいなのだが、庭に対する憧れをかき立てられた。
読ませる作品なのはもちろんなのだが、やはり朝井氏の小説は庭の描写が印象に残る。樹木、草花、池、石。これらが渾然一体となって一つの庭を造り、見る者を魅了する様子が伝わってくる。
「庭を見れば、その人が分かる」
というのは私がいま考えた格言(?)だが、そう言いたくなる。マンションも便利でよいが、庭も捨てがたいなあ。
【粗筋】
江戸時代の庭師に弟子入りした孤児が、親方に加え、その仲間や娘たちに囲まれて成長し、自立していく様子が描かれる。やんちゃな青年が、仕事の悩みや恋の煩悶に面しつつも、一本気にそれをくぐり抜けて大人になっていく過程がほほ笑ましい。青年の成長を見えてほほ笑ましく感じてしまうとは、私も歳を取ったものだ…。しかし
「さあ、最後はどういう成長した姿を見せてくれるのだろう」
という期待は、いい意味で裏切られる。大きな影が、密かに彼を狙っていたのだ。
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