2016年2月15日月曜日

【書評】佐藤多佳子『夏から夏へ』(集英社文庫)

小説家がノンフィクションを書いたら、極上のルポになった


『一瞬の風になれ』(←名作です)を書いた佐藤氏が、07年の世界陸上大阪大会、そして08年の北京オリンピックの4×100 m(4継)リレーを走った4人のアスリートを追ったノンフィクション。「人」にフィーチャーして話を進めていくところが佐藤氏らしい。

 上記の二つの大会は、同じメンバーだった。
 一走は塚原直貴。つねに前向きな、トップバッター向きの選手だ。
 二走は末續慎吾。世界陸上パリ大会の200 mで銅メダル獲得という快挙を成し遂げた、歴史に残るスプリンターである。
 三走は高平慎士。短距離走者にしては異例の細身の体つき。北京後も日本代表の三走をつとめる、三走のスペシャリスト。
 そしてアンカーは朝原宣治。高野進、伊東浩司が切り拓いてきた日本短距離界を、大きく世界に近づけた名スプリンターだ。


 これにリザーブの小島を加えた5人の選手を佐藤氏が丹念に取材し、その人物像やお互いの関係などをルポしていく。そしてその筆致が、いい意味で小説風なのだ。通常のルポでは味わえない読後感だった。よい小説を読んだときのように、心が揺さぶられた。さすがは小説家である。

 まさに『一瞬の風になれ』のノンフィクションバージョン。『一瞬の風になれ』を読んだ人にはもちろんお勧めだ。読んでない人には、二つまとめてお勧めしたい。どちらを先に読むかで、違った感動が得られるだろう。しいて言うなら、先にこちら(ノンフィクション)を読むほうが、小説の感動が倍増するかも。私も、『一瞬の風になれ』を再読したくなった。

 ただ、本書は北京オリンピックの前に書かれたものであり、北京オリンピックでの銅メダルという快挙は書かれていない。続編の北京オリンピック版がないのが非常に残念だ。




夏から夏へ [ 佐藤多佳子 ]
価格:555円(税込、送料込)


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