本書は、ミュンヘンオリンピックの年(すなわち、私の生まれた年)に芦屋の豪邸に住む親戚に預けられることになった中1の少女と、その豪邸の娘である小6の少女の物語。帯に書いてある
懐かしさといとおしさが胸にせまる
という一文が本書の内容をよく表していると思う。
私は小川さんよりもちょうど10歳年下であり、物語中の少女たちと同世代とは言えないのだが、1970年代の雰囲気を感じ、懐かしいなあと思いつつ読み進めた。1960年前後の生まれの方なら、さらに懐かしいと感じるだろう。
ストーリーとしては、これといった起承転結があるわけでもなく、ある意味淡々と流れていく。しかし、それぞれのエピソードが、それぞれに心暖まる話なのだ。このあたりのほのぼのとした暖かさと、その隣にある寂寥感の相乗効果が、小川さんの作品の特徴だと思う。
しかも、それらのエピソードが独立しているわけではないところが、またニクい。本書でも、ミュンヘンオリンピックの男子バレーチーム、テロ事件、ジャコビニ彗星などの史実にまつわるエピソードと、カバ、ミーナの父と兄、ローザおばあさんなどの架空の登場人物のエピソードが絶妙に絡み合い、物語に重層感を与えている。
関西在住の私にとっては、舞台が関西というのも親近感が持てる。とはいえ、芦屋の高級住宅街と私には何の接点もないのですが…。
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