2012年10月29日月曜日

書評 東野圭吾『ガリレオの苦悩』『予知夢』(文春文庫)

 ともにガリレオ湯川モノである『ガリレオの苦悩』と『予知夢』を、たまたま続けて読んだので、まとめて感想を書いておく。

 ガリレオ湯川と言えば加賀刑事と並ぶ東野小説の代表であり、『容疑者Xの献身』でブレイクしたのはご存じの通り。今回取り上げる2冊のうち、『苦悩』は『容疑者X』よりも後の作品で、『予知夢』は前の作品である。両書ともに短編集である。

 ガリレオ湯川は帝都大学の物理学科の准教授で、その理系知識を生かし、旧友である草薙刑事のもってくる事件を解決する。草薙刑事をはじめ、その上司からも信頼を得ており、堂々と警視庁の捜査に参加できるところが浅見光彦との違いである。民間人が警視庁の捜査に協力するなどあり得ない話だろうが、事件の度に
「あんたは、どこの誰だね。あ?」
というところから話が始まるのも確かにうっとうしい。

 ガリレオシリーズの特徴は、トリックが理系的・科学的に解決されるところだ。確かに一般的には、科学的に事件が解決されると納得はいくだろう。
「犯人は、魂を悪魔に乗っ取られた男でした」
などというオカルトミステリーよりも
「犯人はこういうトリックを使って、アリバイをねつ造した」
という説明のほうがある意味スッキリする。
 しかし、小説というのはスッキリすればよいというものではない。トリックに科学を用いると、理路整然と事件は解決するのだが、下手に用いると「無味乾燥」になってしまう。
 ガリレオシリーズのすごいところは、トリックに科学を用いつつ、決して無味乾燥にはなっていないところだ。トリックは確かに科学的に解決されるのだが、動機などの人間くさい部分が緻密に組み立てられているため、無味乾燥に陥らないのだ。ミステリーは、事件がスッキリ解決すればそれでいいわけではないのである。

 今回取り上げた『苦悩』と『予知夢』の違いにも少し触れておきたい。
 上にも書いたように『容疑者X』の前と後という違いがある。『容疑者X』後である『苦悩』の湯川のほうが、洗練されていてオシャレな雰囲気になっているように思う。これは、福山雅治のオーラによるものなのだろうか。実に興味深い。

『容疑者X』以外にはガリレオ湯川モノは読んだことがない人は、是非、他のガリレオ作品も読んでみてほしい。『容疑者X』のほうがむしろ特殊な作品で、その他がガリレオの王道だということが分かるだろう。





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