暗い…。
暗い小説はたくさんあるが、それらは暗さによって何かを伝えようとしたり、暗いストーリーの中に何かを見いだしたりするものがほとんどだ。「暗さは手段だ」とでも言ったらよいのだろうか。
ところが織田作の小説は、ただ暗い。暗いこと自体が目的であるかのように暗い。本書は短編集なのだが、どの話も暗い。もう真っ暗である。
しかし、暗い話のはずなのに、サッと読めて、読後感も軽い。気分が重くなることもない。登場人物たちの、どこか飄々とした、ちょっと脳天気なキャラのせいなのだろうか。
本書の中では『聴雨』という、将棋の坂田三吉を扱った小説がとくに印象に残った。最強棋士の一人だった坂田が将棋界から姿を消して十六年。ついに復活の対局を行う。果たして坂田はやはり強いのか。固唾を呑んで見守る将棋ファンたち…。
という粗筋なのだが、これもまた暗い結末が待っている。しかし、暗いと感じるのは読んでいるわれわれだけで、坂田自身にはまったく暗さがない。そのため、重苦しくならないのだろう。
暗いけど軽い。不思議な作風だった。
にほんブログ村
0 件のコメント:
コメントを投稿