「最強」の座をソフトに譲り渡した棋士の行方は
羽生、渡辺を初めとする11名の棋士が、将棋ソフトについて語った本。(本書ではまだ認めていない棋士もいるが)将棋ソフトの実力が人間を超え、「最強」の集団ではなくなってしまった棋士たちに、存在意義はあるのか。悩める様子が伝わってくるが、結論はみんなほとんど同じで
「それでファンが離れるなら仕方ない」
という考えだ。
それはそうだろう。そしておそらく、私も含めて将棋ファンはずっと残るだろう。
もう一つの大きなテーマがソフトの使い方。ソフトが見つけた手は、果たして自分が編み出した手と言えるのか。ソフトに検索させてすぐに答えが出ると、自分の頭で考えなくならないか。このあたりのバランスは、それぞれの棋士で違うようだ。
積極的にソフトを活用するのは、やはり若い棋士に多く、奨励会ではもはやほぼ全員が使っているようだ。話題の藤井聡太も、ソフトを活用してメキメキと実力をつけたらしい。
一方、年配の棋士には、ソフトは詰めがあるかないかを確認する程度にしか使わないという人が多い。「自分の頭で考えてナンボ」ということなのだろう。
興味深かったのは、強いソフトをもっている棋士は、格段に有利だ(だった)ということ。ポナンザを初めとする最強レベルのソフトは一般公開されていないのだが、電王戦でソフトと対局した棋士は、相手ソフトを手に入れることができる。このレベルのソフトをもっている/いないで、大きな差があるらしい。ただ、本書は2016年に出た本なので、現在では公開されているソフトでも十分なのかもしれない。
本書の刊行後の2017年春に、大一番があったのはご存じだろう。現役の名人である佐藤天彦とポナンザがぶつかり、結果はポナンザの2連勝。人間vsソフトの戦いは決着がついたと断じてよいだろう。
さらに、囲碁界でも衝撃が走った。グーグルが開発したアルファ碁というソフトが突然現れ、最強棋士をぶち破った。囲碁は将棋よりも場合の数がはるかに多いので、ソフトが人間に追いつくにはまだ時間がかかると思われていたが、その予想はあっという間に覆されてしまった。
しかし私は、だからといって、将棋や囲碁の魅力が損なわれるとは思わない。人間vsソフトの勝負は、ファン離れよりも、むしろ新たなファンの獲得につながったのではないだろうか。棋士たちは、これからもわれわれを楽しませてくれるに違いない。
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