2011年10月20日木曜日

書評 長谷川英祐『働かないアリに意義がある』(メディアファクトリー新書)

 ハチやアリに代表される「真社会性生物」の興味深い生態が分かりやすく書かれた本。
 働きバチや軍隊アリなどの子供を産まない階層をもつ生物を「真社会性生物」というそうだ。働きバチや軍隊アリは子供を産まないということは、多くの人がご存じだろう。
 しかし「子供を産まない」という性質が、なぜ遺伝するのだろうか。親は子どもを産むから親なのであって、子どもを産まない親はいない。でも、働きバチや軍隊アリにも親はいる。子どもを産む親から、子どもを産まない子が生まれるのは、進化論としては大きな矛盾なのだ。

 この謎に代表されるように、真社会性生物は、進化を研究するうえで非常に興味深い対象である。他にも、本書の表題である「一生働かない働きアリはなぜいるのか」という謎や、「指揮系統がなくても組織がうまくいく理由」、「滅私奉公、すなわち自分を犠牲にしても他人(社会)を救うという性質が遺伝する理由」など、さまざまな面白い謎が解き明かされている。

 私は第5章の後半に出てくる、一つ一つの細胞を個体に、それら細胞が構成する動物を一つの社会と見立て、そこへ真社会性生物の研究の知見を当てはめた説明が面白かった。最初は「何か無理がある説明やなあ」と思っていたのだが、読み進めていくうちに「なるほど」と思わせられていた。消化器、呼吸器、筋肉など、さまざまな器官が共同して一つの動物を構成していることが、実にうまく説明されている。

 ハチやアリなど、社会を作って生活するムシに興味のある人はもちろん、個と社会の関係や、社会がなぜあるのかなどに関心のある人は読む価値ありだ。新しい見方を得ることができるだろう。



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